眠りの森の魔王様 Interlude【After the Chapter U】
  



 癖のある茶色の髪と同じ色の瞳を輝かせながら、その少女はずいと両手を突き出す。
 にっこりと微笑みながら、目で訴える言葉に音声を加えるならば「はい、ちょうだい」であろう。
 マリアはさっと視線を逸らすと、そのまま窓の外の風景をみる。
「今日は本当にいい天気よね。風も適度にふいてて気持ち良さそう」
 わざとらしくそういって話を変えようとしたが、そう上手く行くはずもない。
「うっわ、白々しいにも程があるわよ」
「え、何の話?」
「マ・リ・ア?」
「ほ、本当に何の話か分からないのよ」
 徐々にエリーナの顔から笑みが引いていき、最後には小さく嘆息した。が、無論彼女は諦めたわけではない。
「ま、押して駄目なら引いてみろって言う先人のお言葉もあることだし」
 そう呟くと突如マリアに背を向けると、部屋の片隅で事務机に向かうマリオに声をかけた。
「エドアルド司教はご在室?折り入ってお話があるんだけど」
 その言葉にマリアの顔色が変わる。
「ちょ、まっ」
「通常のご予定なら執務室に居られると思いますが。しかし多忙なお方ですから、ちゃんと事務を通して面会の予約を取った方が確実だと思いますよ」
 マリアが制止の言葉を掛け終わらない内に、エドアルドの声がマリアの声を遮った。
「わかった。取り合えず行ってみるわ」
「はい。ところで話、とは?」
「それがね、マリアが・・・・」
 呆然とやり取りを聴いていたマリアは寸でのところでエリーナの口を塞ぐことに成功した。そしてそのまま彼女を後ろから拘束すると急いで廊下へと連れ出す。
「分かったわよ、払えばいいんでしょ、払えば」
「そうそう、初めからそうしとけばいいの」
 深く深く嘆息したマリアを尻目にエリーナはご機嫌である。
「そこまで落ち込まなくてもいいでしょ?特1は給料も多いんだから」
「落ち込むわよ!フェルス来てから何かと出費増えてるんだしっ」
「あ〜お小遣いあげないといけないのね」
「第一、アンタにグラールのディナー奢るんなら自分で食べたいわよ」
「フォンダンのケーキも忘れないでね」
「・・・・・・それ以上太ってどうするのよ」
「マリアよりは痩せてるわよ?胸は別だけど」
「何ですって?」
「図星さされると怒るって本当みたいね」
 対峙して言葉の応酬を交わす少女達を通行人は皆恐ろしげに避けて歩いていく。そろそろ彼女達の周囲に零下40度のブリザードが吹き荒れることを見越しての判断だろう。




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