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Ⅰ. The first confrontation
  



「なっ、何なのよここはっ!!」
 1人の少女が大きな館の前で大声を張り上げている。
 赤みがかった髪は腰まで伸び、顔立ちは何処か大人びている。但し、今はその整った顔も見る影もなく、小さめの口を限界まであけて怒鳴っている。
「いっかに~も、なんか出そうなカンジじゃないっ!ちょっと~、誰か出てきなさいよっ」
 彼女が仁王立ちしているのは、古めかしいがかなり大きな洋館の前。
 あたりは鬱蒼とした緑に覆われ、雰囲気は満点。
 少女の声に答える声はせず、不気味な羽音と、鳴き声だけが彼女の耳に届く。
「……やっぱ騙されたわけ?って、今晩どうするのよ?こんな森で1人で野宿でもしろっての?冗談じゃないわよ」
 ガシッ。
 勢いよく門の柵を掴み勢いよく揺すってみる。
「あ~け~て~よっ」
「柵が壊れたら弁償してくれるんだろうね?前帝国時代の水晶合金でできた最高級の品だからかなりの値だよ」
 彼女の真横で冷ややかな青年の声がした。
 驚いて隣を見ると、何時の間にやら彼女の横には黒髪の不思議な雰囲気の青年が立っていた。全身黒尽くめと言うだけでも奇妙なのに、彼が身にまとっている服は何処か古めかしく彼の印象をより強めていた。
  顔は冷たい印象を受けるがかなり整っている。
「あんた誰よ?」
「君が呼んだんだろう」
 ………。
「何ですぐに出てこないのよ」
「不満なら帰るといい。こっちはレジル家からの紹介があったからわざわざ雇ってやろうと言ったんだ」
「不満があるとは言ってないじゃない。第一こっちだって好きこのんでこんなお化け屋敷に来たんじゃないのよ」
 そう、このリレグリッツ家は由緒正しい貴族であると同時に、これまでに幾人もの歴史に名を残す魔術師を世に送り出してきた魔術師の家系。一般人にとって魔術師など嫌悪の対象以外の何物でもない。
「なら帰る事だな」
 くるりと背を向けて門の中に入っていこうとする青年を悔しさをこらえながら引き留める。ここが駄目なら計画が全て水の泡。レジル家に手回しまでした苦労が徒労と終わってしまうのだ。
「うそっ、嘘です。ここで働かせてくださいっ!!」
「……名前は?」
「聞いてないの?」
「誰がいちいち使用人の名前をきくんだよ」
「むかつく奴」
「なら出ていけ」
 このままでは先程の繰り返しだ。慌ててにっこりと微笑みながら自己紹介をする。過剰な自信ではなくマリアは己の容貌が人並み外れたものであることを知っていたし、それが他人に及ぼす影響も身を持って理解していた。自分の笑顔に反論できる者が皆無に近いということも。
「レジル家の紹介でここで働かせていただく事になりました、ローズ・フィリスです。よろしくお願いいたします」
 正式な礼法に従って深々と礼をする。
「打って変わって下手に出たな。まあいい。俺がこの家の主のジェイド・リレグリッツだ」
 顔を上げてまじまじと目の前の青年を見つめる。
「えっと。あなたが?」
 そう言う少女の声は疑惑で満ちていた。無理もない。天下に名を知らしめるリレグリッツ家の現当主が、目の前にいる少年期をを抜け出したか抜け出さないかの青年だというのだから。
「そうだ。何か問題があるか?」
 ざざざっと彼女の顔から血の気が引いた。何処の世にわざわざ使用人のために門を開けに来る主人がいるのだろう。いや、実際ここにいるのだが、彼女にそんな事が想像できるわけもなかった。
 これは、ヤバイ。
 かなりヤバイ。
 早くも計画は失敗に終わるのだろうか?
 必死で祈りながらもう一度だけ目の前の青年に尋ねてみる。彼が別の答えを言ってくれる事を期待しながら。
「じょっ冗談だったりしない?」
「しつこいな、何度言えばいい。俺がジェイド・リレグリッツだ」
 今度こそ彼女は事実を受け入れた。事実を受け入れて、そして―――
「そんなのあり~~~~~~っっっっっ!?」
 絶叫した。





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