\.The confession
  



 広々とした部屋の中に3人はいた。ジェイドの部屋だ。
「いつやってくれるの?」
 切り出したのはローズだった。椅子に座ってジェイドと向き合っている。
「ちょっとこちらの事情が変わってね。シグルス、お前この女の契約内容について色々と知っているんだろう?」
「お前とか言うの止めてくれない?」
「ロザリーヌ=セジュ=ミレグリットだったな。……ミレグリット?」
 ジェイドは何かに気付いたようだった。
「ミレグリット家って確か聖伯爵家の称号を持った皇家の分家だったよな」
「遠く遡れば、ね。そんなことよりさっきの言葉はどういう意味よ?」
 ジェイドの隣に座っているシグルスをローズは見つめる。その視線を軽く受け流すとシグルスはいとも簡単に口を開いた。
「契約の場に立ち会ったのが僕だっただけさ」
 ローズとジェイドの目が大きく見開かれる。ジェイドは契約は通常契約を行うもの同士の間のみで行われるものであり他者を交えて行われないことを知っていたから、又今になってシグルスが口を開いたから驚いたのであり、ローズは自分も知らない自身の身にかかっている契約をシグルスが知っていることに驚いていたのだが。
「その契約は君の家とその魔族の間で行われたというより、僕たち異界とこの世界の間で結ばれたという方が正しいんだよ」
「異界とこの世界の間?」
「そう。まあ、とある時に異界とこの世界の間を隔てていた時空に歪みが生じ、色々と、揉め事が起こったのさ。前帝国時代の魔物達の侵入は君達の方がよく知っているだろう。闇王、ああちなみにこれが君の契約者の名前なんだけどね、がその歪みを戻す際に時空を保つための贄を要求した。その時、最もその時空の気に近い気を持った者が探されてそれが君の弟だったというわけ」
「何でそこでレトがでてくるわけよ……」
「先見をした闇王がそのレトをと言ったんだよ。現在、歪みは闇王自身の力によって支えられている」
 いきなりの話にローズの頭は着いていかなかった。
 しかし、これだけは分かった。もし契約が破られれば歪みが再び起こり異界の者達がこちらの世界へ入ってくるかも知れないのだ。
「……そんな」
 目に見えて色を失ったローズとは反対にジェイドはその話しに興味を持っているようだった。帝国以前の話などそうそう聞けるものではなく、彼の知的好奇心は多いに刺激されていたのだ。そして彼はこのシグルスの性格を良く知っていたのだ。
「それで?」
「それで、といわれてもそれだけさ」
「方法があるから契約内容を話したんだろう」
 その言葉にローズがすかさず反応する。
「本当に君は頭が良く回るよね。相手をしてもちっとも面白くないよ」
「生憎俺は人間だから、お前みたいに楽天的に余興ばかりを求めて限りある人生を無駄に過ごしたくはない」
「よくいうよ。まあ、話に戻るけど、何故レトがその犠牲者として選ばれたと思う?」
「同質の気を持ってたからって……」
「そこだよ」
 シグルスはそう言うと、手近にあった花瓶に手を伸ばし、その中にいけられていた花を宙に放った。
 不思議なことに花はそのまま空中に静止し、中に入っていた水も宙に浮かび光に反射している。
「この中に僕の妖気をためてみる」
 そういうと、シグルスは手を瓶にかざした。すると程なくしてその瓶は変色し禍々しい妖気を放つものへと変わっていた。
 そしてそれから手を離すとローズにもわかりやすいように中に入っていた妖気を抜く。するとそれは元通りただの花瓶に戻っていた。
「つまりこういうことさ。君の弟は病気がちだといっていたよね。その理由はこれ。時空の気というのは人間の身には強すぎる毒となるんだよ。でもそれを抜いてしまえば元の人間に戻る」
「………ってことはその気を抜いて時空の歪み?に全部入れてしまえばレトは死ななくていいし、それどころか体も丈夫になって歪みも元に戻ると、こうゆうわけ?」
「その通り」
 そういわれて流石のローズも何処かがおかしいと思う。
 そんなに簡単に事が済んでいいのだろうか?
 それより何故その時空の気とやらが弟の、レトの体にやどっていたりするんだろうか?
「………なんか隠してない?」
 ローズがシグルスに詰め寄る。
「何にも?」
 表情を全く変えずにさらりとそう言われてもやはり何かが引っかかる。
「1つ聞くけど、何で弟に時空の気が宿ることになっていたわけ?それに先見ってそんなに未来のことまで分かるものなの?」
 そう言われてもシグルスは何も言わないし、何かを隠している様子でもない。ローズが諦めようとしたとき口を開いたのはジェイドだった。
「そういえば初めから様子が変だったよな。最初にお前は忘れてしまったと言ったよな?何故、俺にまで嘘を付く必要があった?」
 ジェイドがそう言いながらシグルスを睨む。
 三日間もかかって契約に関する書物を調べ、ローズと共にやってきたあの禍々しい気配からこの館を守るための術を施しもしたのだ。
 それらが全て無駄骨だったと聞いて笑っていられるほどジェイドの心は広くない。
「……そういえば、私シグルスの前でレトが病弱だなんて言った覚えもない」
 ローズも思いだしそう呟く。
「………色々と説明してもらう必要がありそうだな」
 ジェイドの言葉にシグルスは顔を背けた。
「いくらお前が魔王であろうと、契約者の俺には逆らえないはずだな?」
「魔王っ!?」
「まあ、そういうことになるな。俺たちの一族がシグルスと契約を交わした時、コイツは確かに魔王だった」
「話してくれない?でないと、こんなものがお仕置きをしたいって言ってるんだけどな〜」
 にっこりと微笑みながら懐から小さな袋を取り出し、中から玩具のように小さい剣を取り出す。
「……そんなもの何処で手に入れたんだ………」
 ローズが手にしていたのはくすんだ灰色の剣でところどころに何かが混ざっている。長さは小指ほどで到底誰かを傷つけることが出来るものには見えない。
 それでもシグルスの顔は明らかにひるんだ色を見せていた。
 ローズが手にしているもの。それは簡単にいってしまえば古代の遺物だった。
 帝国以前の古い遺跡などで時折発見される貴重なもの。
 帝国以前といえばこの世界は異界からの魔物の侵入で非常にあれていた。そしてその為に人は魔から己の身を守るために様々な道具を作り出したのだ。
 その一つがこの剣だった。
 今は廃れてしまった対魔の技術。その中でも現在では最高品として名高い封魔の剣。勿論、完全に封じることが出来るのはある程度の魔族までだが、相当な力を持った魔族でもこれで刺されるとまあ結構なことになってしまう。
「本当に変わった人間だね、ロザリーヌは。ここまで面白い人間を僕は始めてみたよ」
 シグルスは本当に面白そうに笑いながらローズを見た。自分を魔王(正確には元魔王だが)だと知っていながらあのような物で脅す人間など見たことがなかった。
「どうでもいいから早く話してよ」
「はいはい…………」





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